起業体験を通じて見つけた、イノベーションに本当に必要なこと|ILP Alumni Interview Vol.8

研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。

ILP第7期生 尾崎さん、濱尾さんは、ビジネス職のキャリアを積んでこられた中で、今回ILPでは研究者と技術シーズの事業創出に挑戦されました。

プロフィール

東京海上日動火災保険株式会社

尾崎 護氏

外資系医療機器メーカー

濱尾 康一氏

ーどんな研究の事業化に取り組まれましたか?

尾崎:私は、大学研究者の方が中心の創業期のAIスタートアップに参加しました。コストや消費電力の高さなどAIの社会実装を阻んでいる原因を解決する独自技術を持つチームです。その研究成果を使い、後継者不足や危険が伴う工場運営上の問題などを解決し、安全安心な社会の実現を目指すビジョンを持っていました。

私の行動する上での判断軸の1つが「社会的な意義」なので、プレゼンで事業コンセプトを聞いた時からこの企業に必ず参加したいと思っていました。チームの中では、ビジネスモデルの作成や営業販売戦略の立案を中心に担当しました。

濱尾:私は最も自分が活躍できるイメージが最も沸いたチームを選びました。参加したのは、大学所属の医師が中心の耳鳴りや難聴を治すプロダクトの事業化を目指すチームでした。現職で眼科領域の製品を担当していたため、産業構造や流通経路などをある程度理解していましたし、この分野にニーズがあることも知っていました。そういった事前知識を活かし、プログラム中は営業戦略やビジネスモデルのブラッシュアップを受け持ちました。ただ、チームには創業者の方と言語聴覚士の方しかおらず、臨機応変に色々な役割をすることが多かったです。

ー実際に研究シーズの事業化に関わられて、どうでしたか?

尾崎:働き方や意思決定のスピードなど、驚くポイントは多かったです。特に1人がこなす業務の幅には驚きました。普段働いている環境では明確に担当範囲が決まっていますが、今回のチームには数名しかいないので、社長が自ら資金調達の資料作成から採用計画の立案、営業まで全てこなしていました。それに加えて一瞬で判断して物事を進めていくスピードも求められるので、最初のうちはついていくのが大変でした。

ただそういった精神的にも身体的にも大変な環境にも関わらず、働いている人が楽しそうなんですよね。毎週一度のミーティングのたびに、進捗報告や直面している課題を熱く話している姿が印象的でした。

濱尾:複数人でチェックをしながら物事を決めていく大企業とは異なり、一人一人が意思決定者、承認者にならないといけない場面が少なくありません。その環境の中で、意思決定をスピード感持って進める面白さと怖さを肌で感じられました。

ーILPでは何を得ましたか?

濱尾:本当の意味で、スタートアップのリアルを知ることができた点です。今まで経営者の講演会などは聞いてきたほうですが、極端に言うと、どの方も「事業を起こし、苦戦・失敗を経て、結果再起しました」となりますよね。一方でILPでは、その結果が出る前のまさに「最中」にある人達と時間を共にできます。もし新しい事業を自分で起こしたければ、学ぶべきは「まさに今」事業を作っている過程の泥臭い失敗や取り組みだと思います。

また、研究チームの所属する病院で患者さんの反応を直接見る機会があり、実際にユーザーにどのように役立っているかを目の前で感じられたことは、とても新鮮で貴重な経験でした。それによってコミット度合いが一気に変わりましたね。

ILPは研究領域を対象にしているため、研究面での確かさ、そしてアイデアの発想力が際立っている経営者(または研究者)が多いです。だからこそ、私たちのようにビジネスの仕組み化に日々取り組むメンバーは貢献しやすいと感じました。例えば、自分が日頃業務で培ってきた「誰の何の課題を解決するのか」を考えることが、起業家の方の事業アイデアを客観的に見てブラッシュアップする際に思いのほか感謝されたりしました。

ーなぜ研究開発型スタートアップの事業づくりに参加を?

尾崎:私は1年半前に、足の病気にかかり運動が突然できなくなる出来事がありました。全く予想もしていないタイミングでこういうことって起こるんだなと。

当たり前を突然奪われる経験をして、自分が人生を通してやりたいことについて改めて深く考えたとき、その1つが「自分で事業をつくること」でした。しかし同時に、今の自分にそれを実行できるのか?自分が通用するのかが分からないと次の一歩を踏み出せないなと。そういった中で、実際にスタートアップの世界で挑戦できる場としてILPに応募しました。

濱尾:大企業では役割が細分化されているため世の中へのインパクトや自分の実力を測りにくいと思います。私は自分でアイデアを形にしたかったので、会社を出て挑戦したいと思っていました。しかし辞める前に、大企業の中でチャレンジしてからでも遅くないなと。そこで今年1月からコミュニティを社内で立ち上げ、アイデアや熱意を持った人同士が繋がる場を当時の社長に予算をもらって始めました。

しかし、今年4月に社長が他界してしまって…。社長も研究開発出身だったので、コミュニティを始めるにあたり「違う分野の仲間が集まり、お互いイノベーションを起こせるように競争しましょう」と話していたのですが、それも叶わず。その経験を経て、一歩踏み込んだ取り組みを探す中でILPに出会いました。

ースタートアップ経験は、大企業の中でも役立っていますか?

尾崎:自分の想いや理想を信じて社会課題に挑戦している人と働けたことで、チャレンジに対して前向きになれました。また、事業を作るには何をすべきかが以前よりも明確に描けるようになりました。

濱尾:以前より、思考やフレームワークの偏りに注意するようになりました。あとはいい意味で「角を立たせないと社会は変えられない」と実感できました。今の会社で私は戦略を描く仕事をしていますが、どんなに斬新な戦略を最初に書いても最終的には丸く角が立たないものになりがちです。ただそれでは世界は変えられないと思うのです。なぜなら角が立たないということは、誰しもにとって「そこそこ良い戦略」でしかないから。強烈に誰かに刺さり、爆発的な熱狂を生むようなベストな戦略ではありません。

スタートアップの中で働けたことで、「前例がない、非難されるかもしれない」状況でも、挑む行為それ自体が社会を変えることなんだと、実体験として知れたのは大きいです。

ーこれからILPに参加される方に一言お願いします!

尾崎:何を得たいか「具体的な目的」を持って参加することが大事です。本気で挑めばチームも必ず応えてくれます。目的意識さえ持っていればマイナスに転ぶことはないので、「チャレンジしたいけど自分の実力や覚悟に不安を覚えている方」はぜひ勇気持って挑んでみてください。

濱尾:尾崎さんのコメントに付け加えると、ネクストキャリアに悩む若手には選択肢を広げる手段として挑戦してほしいです。外の環境で自分の実力や能力を知ることで、それまで気づけなかったスキルや働く目的が見つかることを願っています。

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